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Joker [ジョーカー]  ‐神秘の力‐

長編小説 その1           

    第一章        プロローグ

 
  
  ギャア、ギャア、ギャア、という不気味な鳥の声に、セシリアはびくっとすくみあがった。深い霧におおわれた森の上空を、巨大な鳥の影が横切っていく。じっとりと湿気で濡れてしまったナイフをにぎりしめて、セシリアは緊張をほぐすためにゆっくりと息をはきだした。
  木々が生い茂る未開の島のジャングルで、セシリアが育ての母親とはぐれてしまったのは一時間も前のことだった。冒険家の心得のひとつとして、仲間とはぐれた場合はその場を動かないのが鉄則。セシリアは経験豊富な母親から未開の大陸を生き残るすべをたたきこまれていたので、仲間の背中を見失ってからは、一歩もこの場を動いていなかった。
  そのうち、母親と仲間がきっと自分を見つけてくれるだろう。セシリアはそう信じて待ち続けていた。けれど、濃い霧のなかに人影らしいものはいつまで待っても見えなく、いつもは気丈なセシリアも、何が出てくるかわからない危険のなかで、不安を隠せなかった。
  きっと大丈夫・・・大丈夫・・。短い髪の毛からしたたる水滴をぬぐって、セシリアは心のなかで唱えた。十二歳の誕生日におじさんからもらったナイフを握りしめると、ほんの少しなぐさめられる気がした。数週間前に船の上で祝福されたのが、まるで遠い昔のようだ。
  この一時間、セシリアは濃い霧のなかで不思議な感覚をあじわっていた。霧の中で目をこらしていると、地面もさだかに見えないなか、ときおり何かの影が視界をよこぎるのだ。それは見たこともない建物の形をしていたり、生き物の形をしていたりした。まばたきするのも恐ろしくて、セシリアはその影を息をころして目でおうのだが、しかし、ふいに風景がゆがんだかと思うと、影も同時にふっと消えてしまう。その繰り返しだった。セシリアは、母親がこの島のことを、「ないものがあり、あるものがなくなる島」と言っていたのを思い出していた。
  と、ふいに、霧の中から声が聞こえたような気がして、セシリアはばっとその方向にふりむいた。みると、セシリアよりも背の高い人影が、遠くから手を振っていた。
「お―――い」
  セシリアは緊張してナイフを握りしめた。聞いたことのない男の声だったからだ。人影が近付いて来るのをみて、セシリアは後ずさって怒鳴った。
「近寄らないで!」
  すると、人影は足をとめた。ふたりの距離は、ぼんやりと相手の顔が見えるほどだった。戸惑うように立っている人影をみて、セシリアは人影が自分よりも少し年上ぐらいの青年だと気づいた。
「恐がらなくていい」  
  青年は落ち着いた声音でいった。背が高く、まるで軍人が着るような青い色の服を着ている。顔ははっきりと見えないが、父親と同じ緑色の瞳をしていた。
「これを渡しにきたんだ」
  青年の差し出した手には、小さな取っ手付きのコップが握られていた。表面がきらきらと虹色に輝やいている。セシリアは、戸惑ってそれをじっと見つめた。
  しばらく受け取らずにたたずんでいると、青年はもう片方の手をのばして、セシリアの手をとった。セシリアはびくりとしたけれど、不思議と振り払う気にならなかった。青年はその虹色のコップを、セシリアの手に静かに置いた。
「あなた、誰?」
  青年の手の温かさに、自然と質問が口からこぼれていた。じっとセシリアが見上げると、青年はちょっと口のはしをあげてくすりと笑った。
「きっと、これはすぐに役に立つから」
  セシリアの問いに答えずに、青年は優しく言った。セシリアは、青年の左手にやけどの跡があるのに気づいた。
  青年が手を離すと、不思議な心地よさが手のなかから感じられた。まるで、あるべきところにおさまったかのように、コップはセシリアの手にぴったりだった。セシリアは、コップから目をあげた。
  しかし、目線の先に青年はいなかった。かわりに目の前には、まるで夢のなかのような風景がひろがっていた。
  セシリアのまえには、巨大な岩が横たわっていた。黒い表面のすきまからは、透明な水晶が柱となって飛び出ている。そして、そのひとつひとつの柱の間から、透明な水がさわさわと湧き出していた。
  セシリアは、突然のどの渇きを覚えた。流れ出る水はきらきらと虹色に輝き、頬にあたる雫はどこまでも冷たく感じられる。しかし、水を汲もうと手の中をみると、あの虹色のコップは消えていた。
  セシリアは驚いたが、すんなりと状況を受け入れていた。そして、背負っていたリュックをおろすと、父の形見でもあった、古ぼけたコップをとりだした。コップをかざすと、水はあっという間にふちまでたまり、セシリアの手まで濡らす。セシリアははやる気持ちを抑え、コップを口につけた。
  どこまでも甘く、やさしい口触りの水が、セシリアののどをくだっていった。あっという間に一杯を飲み干すと、セシリアはほうっと息をはいた。
  手の中のコップは、水の輝きをうけて、きらきらと虹色に輝いていた。セシリアは、一杯で満足し、それをまたリュックに戻した。
「お――――い、セシリア!どこにいるんだい!」
  母親の声に、セシリアは顔をあげた。がらっと変わった風景をみても、セシリアは驚かなかった。あの巨石は、もうどこかへ行ってしまっていた。
   


    
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テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

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頑張りたいのは日記と小説!あといろいろと趣味や気になることについて書いていきたいなぁ、と。まだ若いんで前向き思考で明るいブログを目指します!(^^*)ノ
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